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- 2022.05.16
「リーダー」の視座とは
荒川詔四氏 | 株式会社ブリヂストン 元代表取締役社長・CEO 第198回 M&A研究会(2022年4月開催分)ダイジェスト 荒川氏は新卒でブリヂストンへ入社後、タイ・中近東などで海外キャリアを積み、40代で海外部門の課長職から突如、社長秘書職へ抜擢されます。そして社長の参謀役として、当時日本企業最大のM&Aであるファイアストン社の買収に深く関わり、これがブリヂストンのグローバル・ジャイアントへの礎となりました。豊かなご経験から紡がれた「荒川流リーダーの心得」の数々、ダイジェストにしてお届けします。 生き残るために、グローバル・ジャイアントへ 34年前、ブリヂストンが米国の国民的企業であるファイアストン社を買収した際、事務方として深く関わりました。タイヤは国際規格商品で、早くからグローバル化した業界です。競争を勝ち抜くうえでは、規模が非常に重要なファクターとなります。当時、業界全体の生産能力過剰と業績不振を背景に、業界再編の動きが拡がっていました。対象会社は合弁先であり、1日1億円の赤字を出していた斜陽の会社です。ピレリ&ミシュラン連合とのTOB合戦、クロージングまで2か月という難条件でしたが、トップは「このチャンスを逃すと会社の将来は無い」という強い危機感と、長年考え続けた「あるべき姿」実現のチャンスだという決意をもって、買収を敢行しました。「本体より大きい財務不良会社を高値掴みした」と、内外で批判の嵐に晒されましたが、この買収をトリガーに、ブリヂストンは今日のグローバル・ジャイアントへ「変革」しました。 会社の変革を可能にするリーダーとは 「会社を変革する戦略」とは、「理想の姿を実現する戦略」と言い換えることができましょう。では、理想の姿とは何でしょうか?私は必ず「ユニークな1位」を目標に描くべきだと答えます。従って存在感のある2位、価値ある3位などは単なる逃げ口上でしかなく、変革には禁句である、そう考えます。そして、この変革の成否を左右するのが、プロフェッショナルリーダーの存在です。常に「理想」から思考を出発させ、理想の実現に向かってありとあらゆる努力を惜しまず、メンバーの納得・共感を得ながら組織を育て、確実に結果を出す。リーダーシップの本質は洋の東西を問わず普遍です。 リーダーは「本物の小心者」たれ リーダーというと豪胆なイメージを持たれるかもしれませんが、「小心な楽観主義者」が最強だと思っています。新卒2年目で海外に放り込まれ、苦労の連続で学んだことは、相手を無理やり動かすなどできないということでした。ただ、繊細なだけではダメです。様々な失敗の経験が繊細な神経を束ね、強靭な神経を作ることができるのです。 わたしは80ヶ国以上での業務経験を経て、3現(現物、現場、現実)が仕事の基本であり、ビジネスの世界では行動が全てだと思うに至りました。 「順調にトラブル」の意とは 部下からの“上手くいっている”という報告は、経営情報としては価値がありません。何かに取り組めばトラブルが出るのは当たり前ですので、トラブル自体を気に病む必要はなく、起きたトラブルにこそ価値があると考えています。社長時代には、不正防止という別の含意もあり、「私のところにはトラブルだけを持ってきなさい」と伝えていました。苦し紛れに、上手くいっていないことをあたかも順調だとでっち上げるリスクを下げていたのです。 これは会社に限った話ではありません、個人の人生も同じです。躓くことは普通です、順調にトラブルが起こっているから心配するな、私はいつも自分自身にも言い聞かせています。 リーダーは頼れる参謀を持て ビジネスにおいて参謀とは「知的な戦略家」ではなく、「戦略実行の補佐役」です。日頃からリーダーのビジョンや戦略を完全に理解し、脳を同期させておくことが求められます。しかしリーダーは、「裸の王様になるメカニズム」を内包していると思っています。だからこそ、時に直言し、リーダーの不完全性を補う参謀が必要なのです。また、危機の時には、リーダーの逃げ道を探すのではなく、共に正面突破策を考えるのが参謀の仕事です。どのような難局も、正面突破でしか道は拓けません。ごまかしは叩かれ、永遠に問題を解決できなくする方法です。 私も経営者となり、腹落ちしたのです。指示・命令で動くのは単なる「部下」であるということを。経営と現場の繋ぎ手として機能し、「ダメなリーダーならば使い物になるようにする」のが真の参謀なのです。 パネルディスカッション ファイアストン社の買収の第一報を、当時米国で勤務していた弊社会長の渡辺は、手にしたウォールストリートジャーナルで知りました。その時の鮮烈な記憶をたぐりながら、日本企業のM&Aによる海外市場獲得の先駆けとなった本ディールについて、詳しく伺いました。 ■ディスカッショントピックス・「新卒2年目ポジションなし」が海外の現場で学んだこと・ポジションがないことで実力が試される・「買う」だけならお金があればできる。大事なのは「買ったあと」・危機意識を持ち、将来世代で結果を出すことを意識して「本業をM&A」する・経営陣の覚悟と現場の総合力で成し遂げたM&A・買収先をパートナーとして尊重すること・経営とは実行力である M&A研究会とは 法人向け有料会員制(月5万円 税込)のフーリハン・ローキーM&A研究会(旧GCAクラブ、以下「M&A研究会」)は、M&A関連の知識、実務を広く共有していただく場の提供を目的として、2005年11月の設立以来、数多くの企業様にご愛顧いただいております。 各会員企業様毎にフーリハン・ローキーの担当者を配置し、M&A関連の各種ご相談を承っております。現在、メーカー、IT、小売、サービス等多種多様な業界のリーディング企業を中心に、多数ご入会いただいております。 フーリハン・ローキーのプロフェッショナルに加え、M&Aに関連した法務、会計、税務等の専門家や実務経験豊かな経営者などのゲストスピーカーを講師に招いて、毎月M&A研究会セミナーを開催しております。 今後の開催予定はこちら。 【お問い合せ先】M&A研究会事務局お電話(03-6212-7388)または問い合わせフォームよりご連絡ください。
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- 2022.05.11
【出演報告】BSテレ東『マネーのまなび』に渡辺章博が出演しました
2022年3月31日放送のBSテレ東『マネーのまなび』に渡辺章博が出演しました。コロナ禍で加速する業界再編。その中でM&Aをどう捉えるか。昨年M&A案件数は過去最高を記録しましたが、その急増の理由を、元財務官僚で報道番組キャスターを務めた経歴でも知られる村尾信尚氏が弊社渡辺にインタビューしました。 ■番組名:「日経スペシャル マネーのまなび」■番組テーマ:急増!M&Aのキーパーソン直撃 M&Aに対する日本人の考え方の変化 ― 日本でM&Aがかなり増加しています。その実態はどうでしょうか。その背景には日本人のM&Aに対する考え方の変化もあるのでしょうか。 渡辺 少し前まではM&Aというとなにか特別なことでしたが、いまや中小企業の事業承継など、いろんな所でM&Aはより身近なものになってきました。日本ではこれまで売却というと非常にネガティブで、いまだに「身売り」とか「買われる」というような言い方をして、何か負け組みたいに捉えられてきました。しかし、必ずしも売るということは悪いことではない、ネガティブではない、社員にとってもお客さんにとっても社会にとっても悪いことではないという認識が徐々に広がりつつあります。その中で、日本のM&A市場が非常に活発になってきたということではないでしょうか。 村尾 おっしゃるような風土が日本に根付いてくると、M&Aがすんなり受け入れられるのでしょうね。 渡辺 結局、皆さんの賃金が上がってくるわけです。買った会社が強くなってきて、たとえばこれからインフレになりますという時に、市場シェアが高い会社は値上げすることも簡単にできます。値段を上げることが楽になればインフレだからといって社員の賃金を下げることはなく、むしろ賃金を払って優秀な人たちをどんどん集めるという好循環が生まれます。ところが規模が小さい、日本のように会社の数が多いというと、いつまでも競争するのでインフレになっても値段を上げることはできない。原材料の調達は上がってくる、政府からは賃金あげなさいではやってられないですよね。 M&Aで幸せになる優先順位 ― 企業を買収する際に難しいのは従業員の処遇といわれます。M&Aが成功するにはその優先順位が必要だといいますが。 渡辺 M&Aでは幸せになる順番が重要です。その順番を間違えるとM&Aは失敗だと言われることになってしまいます。買い手が先に幸せになろうとすると、だいたい失敗します。対象企業の人たちが最初に幸せにならないとM&Aはなかなかうまくいきません。というのは、大きな対価を払って何を手に入れたかというと、究極的には「事業」を手に入れたのであって、その事業を構成しているのはやはり人です。その買収で対象企業の社員に対価がいっているわけではありませんから、社員が自分たちにとって本当に良かったと思うまでは不安なことが多い。いろんな不安があるわけですから、まずそこをマネージしなければいけない、これがPMIです。そして、その次によかったということが実際にビジネス面で生まれないといけないわけです。今までは小さな会社だったが大きな会社と一緒になったことによって、お客さんによいものが提供できる、値段の競争で負けない、と思わせることが重要です。この順番を間違えてしまうと絶対にうまくいきません。 日本経済に求められる課題にM&Aが大きく動く可能性 ― 日本経済に求められる課題の一つであるデジタル化、グリーン化に関連したM&Aが大きく増加しそうな気がしますが、いかがでしょうか。 渡辺 コロナをきっかけに、ESGそしてデジタル化は一層重要なファクターになってきています。我々の仕事の一つにベンチャー企業の売却のお手伝いがあります。日本ではベンチャーというとIPOを第一優先する傾向がありますが、欧米ではベンチャーが大企業に買収されるというマーケットが存在します。大企業は社内でイノベーションを起こすことが難しいですし、急速にデジタル化が進むと時間が足りません。M&Aは時間を買うという効果がありますから、ベンチャー企業を買収する取り組みがこの2年間とくに欧米では活発になりましたが、日本は若干出遅れました。 日本経済の効率化のためのM&Aの活用 ― これから日本で経済の効率化、産業転換を図っていこうとしたときに、よりM&Aが活用されるようになるポイントはなんでしょうか。 渡辺 やはり、人の問題です。労働法の問題など、日本は変わっていかなければいけない課題だと思います。 最後に、村尾氏はOECD加盟諸国の時間当たりの労働生産性を取り上げ、日本が下位でありOECDの平均も下回ること、生産性の低さが日本の経済を考えるときに非常に重要なポイントであることを指摘しました。生産性が高まれば給与も上がってくる、そしてM&Aが企業の生産性を高めていくひとつの手段になれば、日本経済全体としてもいいことだと思うと締めくくりました。 「日経スペシャル マネーのまなび」についてhttps://www.bs-tvtokyo.co.jp/moneymanabi/ 渡辺が出演した放送回は「テレ東BIZ」にて有料配信されていますhttps://txbiz.tv-tokyo.co.jp/moneymanabi/vod/post_248892
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- 2022.04.28
続・スタートアップのIPOの背景にある「不都合な真実」
前回の記事では、スタートアップのIPOの背景にある様々な問題について指摘した上で、スタートアップやベンチャーキャピタリスト(VC)の出口戦略として、IPOとM&Aによるイグジットを両建てで検討するプロセス(Dual Track)の可能性について論じた。 Dual Trackの詳細については、2022年4月15日に経済産業省から公表された『スタートアップの成長に向けたファイナンスに関するガイダンス』にも寄稿記事として詳細に解説をしている。そちらも併せてご参考頂きたい。 IPOとM&Aイグジットを比較検討する上で、売却価格は重要な要素となる。IPOプロセスとM&Aの買手からの最終オファーでのマーケットチェックを通じて、経済面(売出持分割合を含む)を最大化させることも可能だ。そこで今回は、Dual trackを検討する際の具体的な留意点についてご紹介したい。 対象となるスタートアップの選定: Dual trackによる負担は相応に発生する。全てのスタートアップがIPOとM&Aイグジットを同時に検討することが向いているとは言えない。例えば、他社との事業シナジーが見込まれる、想定IPO価格や人材面に鑑み上場コスト(デメリット)の方が大きい可能性がある等、M&Aのメリットが初期的に想定出来る企業が対象となる。また、主幹事証券から上場時の想定時価総額などの提示を受けている場合、その価格をベースにM&Aでの買手からの意向をヒアリングすることも考えられる。計画的なプロセス設計&マネジメント: IPOの検討を進めつつ、予め、買収候補となる企業とのコミュニケーションを行うことで、有力候補先の意向も把握しながら、Dual trackの実務的なプロセスを設計することが出来る。M&Aの競争環境を醸成することによるプロセス管理や状況に応じた軌道修正が必要になることもあり、単純なIPOの審査プロセスよりも高度な判断が求められる。役員/株主との事前合意: 経営陣や株主を含めたステークホルダー間で協議し、IPO/M&Aの選択の指標・基本条件(最低価格目線など)の設計をしておくことで、スタートアップのマネジメントを含めたディールチームが臨機応変に判断できるようにしておくことが重要。 実際に昨年から、M&Aイグジットが価格面でIPOを上回るケースも出てきた。もっとも、価格面だけではなく、スタートアップ自身が持続的な成長を続けていくために、株式市場から資金調達を行うほうが良いのか、大企業との協業を実現するほうが良いのか、両者のPros/Cons(長所短所)を比較した上で最終的な判断をするような実例が、今後さらに多く出てくるのではないだろうか。
M&AナレッジM&A Knowledge
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- 2022.04.28
続・スタートアップのIPOの背景にある「不都合な真実」
前回の記事では、スタートアップのIPOの背景にある様々な問題について指摘した上で、スタートアップやベンチャーキャピタリスト(VC)の出口戦略として、IPOとM&Aによるイグジットを両建てで検討するプロセス(Dual Track)の可能性について論じた。 Dual Trackの詳細については、2022年4月15日に経済産業省から公表された『スタートアップの成長に向けたファイナンスに関するガイダンス』にも寄稿記事として詳細に解説をしている。そちらも併せてご参考頂きたい。 IPOとM&Aイグジットを比較検討する上で、売却価格は重要な要素となる。IPOプロセスとM&Aの買手からの最終オファーでのマーケットチェックを通じて、経済面(売出持分割合を含む)を最大化させることも可能だ。そこで今回は、Dual trackを検討する際の具体的な留意点についてご紹介したい。 対象となるスタートアップの選定: Dual trackによる負担は相応に発生する。全てのスタートアップがIPOとM&Aイグジットを同時に検討することが向いているとは言えない。例えば、他社との事業シナジーが見込まれる、想定IPO価格や人材面に鑑み上場コスト(デメリット)の方が大きい可能性がある等、M&Aのメリットが初期的に想定出来る企業が対象となる。また、主幹事証券から上場時の想定時価総額などの提示を受けている場合、その価格をベースにM&Aでの買手からの意向をヒアリングすることも考えられる。計画的なプロセス設計&マネジメント: IPOの検討を進めつつ、予め、買収候補となる企業とのコミュニケーションを行うことで、有力候補先の意向も把握しながら、Dual trackの実務的なプロセスを設計することが出来る。M&Aの競争環境を醸成することによるプロセス管理や状況に応じた軌道修正が必要になることもあり、単純なIPOの審査プロセスよりも高度な判断が求められる。役員/株主との事前合意: 経営陣や株主を含めたステークホルダー間で協議し、IPO/M&Aの選択の指標・基本条件(最低価格目線など)の設計をしておくことで、スタートアップのマネジメントを含めたディールチームが臨機応変に判断できるようにしておくことが重要。 実際に昨年から、M&Aイグジットが価格面でIPOを上回るケースも出てきた。もっとも、価格面だけではなく、スタートアップ自身が持続的な成長を続けていくために、株式市場から資金調達を行うほうが良いのか、大企業との協業を実現するほうが良いのか、両者のPros/Cons(長所短所)を比較した上で最終的な判断をするような実例が、今後さらに多く出てくるのではないだろうか。
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- 2022.04.19
株式交付制度について
レポートサマリー 令和3年3月に自社の株式を対価として他の会社を子会社化する新たな手法として「株式交付」制度が創設されたM&Aにおいて用いることができる対価は現金と株式の2種類があるが、自社株式を対価として使う方法については①株式交換と②現物出資に限られていて、そのいずれも課題があった例えば株式交付は、100%子会社化の場合のみに使える株式交換と異なりマジョリティ取得のケースで用いることが可能であり、現物出資のような検査役調査、取締役における価格補填責任といった課題も回避できるさらには、株式対価のM&Aでハードルとなる税金関連においても、株式交付は株式交換のような対象会社における課税の問題を回避でき、また、株主における課税についても、対価として金銭対価と組み合わせない限り、現物出資で問題となる株式譲渡益課税を回避できる 詳細はPDFのレポートをご確認ください。文字が見えにくい場合、表示を拡大、またはPDFをダウンロードしてご参照ください。
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- 2022.04.06
横浜ゴムによるスウェーデンTrelleborg ABのWheel Systems事業買収(約2,652億円)~保守本流の海外M&Aの復活?~
サマリー Houlihan Lokeyは買収側・横浜ゴムのフィナンシャル・アドバイザー買収対象のTrelleborg Wheel Systemsは農機・産業・建機用途の所謂オフハイウェイタイヤ(OHT)の製造・販売を手掛ける。イタリア、チェコ、セルビア、ラトビア、スロベニア、スリランカ、中国、米国、ブラジルの9か国に計14の製造拠点を有し、2022年のEBITDA(予想)は約€230m(約300億円)買収価格(企業価値)は€2,040m(約2,652億円)+アーンアウト最大€60m(約78億円)。EBITDA倍率(2022年予想)は約9倍。横浜ゴムにとっては自身の時価総額と同規模の大型買収、Trelleborg ABにとっては同社売上高の3割を占める事業売却であり、両者ともに事業ポートフォリオが大きく変化大型買収にも関わらず公表後の株価も堅調に推移その他ディールハイライトタイヤ業界において2016年以降の最大案件日本製造業企業による海外企業買収において2022年の最大案件日欧案件において2022年の最大案件北欧製造業において2022年の最大案件 本件のポイント 本件は大型買収ということもあり、デュー・ディリジェンスは一般的なM&Aの相場と比較しても、しっかり時間を掛け、極めて慎重な精査がなされました。Covid-19の厳しい渡航制限の中、主力工場への実査や経営陣との対面での面談に加え、バーチャル工場見学・バーチャル面談を組み合わせたことは本件の特徴の一つです。また、ロシア・ウクライナ情勢が混とんとする中での(買収契約締結は2022年3月25日)欧州企業の買収ですが、買収契約の交渉にも相当程度時間と労力をかけ、(詳細は守秘義務の関係上触れることはできませんが)様々な対応が契約条件として組み込まれています。 ところで、Covid-19の広がった昨年2021年以降の日本企業による海外大型買収としては、日立製作所によるGlobaLogic(約1兆円)やパナソニックによるBlue Yonder(約7,800億円)、ルネサスによるDialog Semiconductor(約6,240億円)など、ハイテク業界が中心でした。DXを一気に推進するという戦略が、これらの案件に共通して当てはまります。では、本件の戦略的意義を見てみましょう。 四点目のESG対応・DX推進は時節柄の内容ですが、残る三つは、①高収益・安定成長の市場獲得、②ブランド・顧客の獲得、そして③地域補完など、伝統的且つ分かりやすい買収目的が並びます。これが本件の最大の特徴ではないでしょうか。本件は昨年同社が公表した中期経営計画に掲げるOHT事業強化に合致するものであり、また本件が具体化する何年も前からその構想が練られていたと聞いています。対象事業は農機用タイヤが主力ということで、全世界津々浦々で販売されており、足元の欧州情勢や物価上昇にもめげず、業績堅調とのことです。筆者はこれまで(Covid-19以前も以後も)数々の海外買収案件を担当してきましたが、これまで述べてきた慎重なデュー・ディリジェンス、買収契約上の手当て、戦略の明白さ、そして対象事業そのもののリスク耐性を踏まえると、表層的な買収金額自体は大型と言えるものの、むしろ極めて慎重且つ手堅い投資と感じています。 無論、不安定な政治情勢やCovid-19がまだまだ続く中、こうした海外買収案件は実務上容易ではありません。しかし、必ずソリューションは存在します。引き続きDXをテーマとしたM&Aは世界的に堅調ですが、本件は、保守本流の事業目的を持った海外M&Aが日本企業に再び浸透するきっかけになるかもしれません。 本件につきましては、Houlihan Lokeyのプロフェッショナルにお問合せください。
動画Movie
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- 2021.12.24
東南アジアM&Aの動向と留意点 第10回 -2021年ベトナムM&A動向の総括
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- 2021.11.30
東南アジアM&Aの動向と留意点 第9回 -ベトナム国営企業民営化の動向
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- 2021.10.25
東南アジアM&Aの動向と留意点 第8回 -ビジネス編:M&A戦略をどう組み立てるのか?
シリーズ記事Series
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- 2022.02.07
メルケル引退 ~ドイツはどこに向かうか~|欧州M&Aブログ(第32回)
2022年最初のブログとなります(また前回から少し期間が開いてしまいました)。オミクロン株が猛威を振るっていますが、今年こそは世界の状況が落ち着くことを切に願うばかりです。本年も何卒よろしくお願い申し上げます。 最初にお知らせをさせてください。世の中に膨大な情報が溢れるなか、正しいM&A戦略の立案・実行をするためには、常にハイクオリティのM&A関連情報に触れていることが不可欠です。そういったニーズに対してGCAとして何ができるだろうかと考えたのですが、その一つの答えとして、この度日本最大級のM&Aコンテンツサイト、COMPASS(https://www.gcaglobal.co.jp/compass/ )を立ち上げさせて頂きました。無料会員登録頂くことで、様々なM&A関連コンテンツをお楽しみ頂けます。本ブログも次回以降はこのコンテンツサイトを通して発信させて頂く予定ですので、これを機に是非会員登録頂ければと思います! さて今回のブログは、フランクフルトに駐在経験のある私としては思い入れの深い、ドイツのメルケル首相引退について取り上げます。シャルル・ミシェルEU大統領は、メルケルが抜ける首脳会議を「バチカン(ローマ教皇庁)のないローマ、エッフェル塔のないパリのようなものだ」と例えました。4期16年という長きにわたって首相を務めたメルケルが残したものを振り返り、そしてこれからドイツはどこに向かうのか考えてみましょう。 1. Who is Merkel? メルケルは第8代ドイツ連邦共和国首相です。2005年に最年少(当時51歳)で、初の女性首相として選出されました。いきなり脱線しますが、まずドイツについて少し整理をしましょう。ドイツの人口は約8,300万人(日本の約66%)、面積は日本の約94%、そして16の連邦州から構成される連邦共和国です。各州が独自の憲法、財源を持ち、広範な権限を有しているのが特徴です。ドイツには大統領もいますが、それはあくまで国の象徴であり、儀礼的な目的のため存在しています(ちなみにイタリアも同様です)。大統領に大きな権限が与えられている米国、ロシア、フランスなどとは政治構造が大きく異なります。 メルケルは西ドイツのハンブルクでプロテスタントの牧師の家庭に生まれ、生後数週間後に旧ドイツ民主共和国、つまり東ドイツに移住しました。ある意味東ドイツ出身と言ってもよいかと思います。ソ連軍が東ドイツに駐留していたことからロシア語を学ぶ機会があり、流ちょうにロシア語を操ることができます。そのレベルは東ドイツのロシア語コンテストで3度も全国大会で優勝を飾るくらいに高いようです。必ずしも語学面のみが理由ではないとは思いますが、メルケルはロシアのプーチン大統領が最も敬意を払う指導者です(ちなみにプーチンは旧ソ連諜報機関KGBの中佐時代にドイツのドレスデンに派遣されていたことがあり、流ちょうにドイツ語を話すことができます)。また、メルケルは実は科学者(物理学者)でもあり、そのバックグラウンドがコロナ対策で発揮されたのはよく知られるところです。 第二次世界大戦後に旧連合国との和解に強力な指導力を発揮しドイツを再び西ヨーロッパに仲間入りさせたコンラート・アデナウアー、ドイツ再統一とユーロによる通貨統合を成し遂げたヘルムート・コール、労働改革により「ヨーロッパの病人」と言われるほど停滞していたドイツ経済に復興をもたらしたゲアハルト・シュレーダー。ではメルケルは何か記憶すべきものを残したでしょうか?何らかの大規模な改革を行ったのでしょうか? 何かといえば必ずノーと言うことから「ミセス・ノー」と呼ばれ、常に熟考し、急を要することを理解しない、日和見主義的、後出し的、緊急財政を押し付けるなど、ネガティブな評価があるのも事実です。一方で、強い理念を掲げて人々を引っ張るタイプの指導者ではないものの、状況の変化を慎重に見極め、現実的な判断をする人という評価は良く聞かれます。その冷静さは有名で、権力は彼女の心情や人格に全く影響を及ぼさなかったと言われます。しかし、冷静なだけでは長期政権を維持できません。メルケルは欧州債務危機(2009~13年)、欧州難民危機(2015~16年)、そしてパンデミック危機(2020~21年現在)に代表される数々の危機をハンドルしてきましたが、その高い調整力こそがメルケルの真骨頂であり、調整力をいかんなく発揮してドイツ国内および欧州を取りまとめ、そしてドイツのグローバルにおけるポジションを確固たるものにしたことこそが、最大の功績だったと思います。 2. グローバル・ムッティ(お母さん) メルケルはドイツ国内では愛着を込めてMutti(ムッティ:お母さん)と呼ばれ、支持率は実に75%にのぼりました。「単純な解決はない」「結末に思いを馳せよ」「力は静寂に宿る」といった発言をし、国際社会でも安定した調整力を発揮したメルケルは、ドイツに留まらない、まさにグローバル・ムッティといえる存在でしょう。 メルケルは「EUの将来のほうがBrexitよりも大事です」と言い切り、欧州を一枚岩にすることに大きなエネルギーを注ぎました。欧州をまとめるうえでは、ドイツは第二次世界大戦の苦い経験から「ドイツ一強」と見られることに極めて慎重です。それもあって、メルケルは隣の大国・フランスとバランスを取ることに腐心し、シラク、サルコジ、オランド、マクロンという4人のフランス大統領と共に、欧州統一、グローバルにおける欧州のポジション確保、ロシアの牽制、米国・中国とのバランス確保に力を注ぎました。蛇足ですが、とある書籍にはメルケルはシラクとマクロンが好きだったと言われています。サルコジは血の気盛んな典型的なラテンですし、片やオランドは静かすぎるフランス人だったのかもしれません。 マクロンはメルケルを、「ドイツの経済力・政治力からはそう見えるかもしれないが、メルケルの念頭にあるのはドイツの覇権の追求ではない。メルケルはバランスにこだわる。彼女が後世に引き継ぐ功績はヨーロッパ統合計画にドイツを根付かせたこと」と評しています。メルケルの調整力の高さがなければ、ヨーロッパはとうに崩壊していたかもしれません。 メルケルは米国との関係にもこだわりました。オバマ元大統領がメルケルを賞賛していたのは有名な話で、“現実的だが信念のためには賭けに出る”メルケルは、まさにオバマが手本とするタイプの指導者だったようです(原発廃止や移民政策などはまさに賭けでしたね)。事実、オバマはホワイトハウスを去る前にベルリンに表敬訪問をするほど、メルケルのことを信頼していました。一方、トランプは貿易をめぐって一貫してドイツを攻撃し、ドイツが予算面でNATOに十分な貢献をしていないと主張。ドイツと米国の関係は一気に冷え込みました。バイデンが大統領になった現在は、その関係は改善に向かっています。バイデンは執務室にメルケルを迎えた際、「米国の友人であると同時に、個人的な友人でもある」と歓迎しました。 3. ポスト・メルケルのドイツの向かう先 「ドイツのお母さん」「世界で最も影響力のある女性」「自由民主主義の最後の守り手」のメルケルが去った後のショルツ首相率いるドイツはどこに向かうのでしょうか? まずドイツ国内について考えてみるに、メルケル政権は「福祉から就労へ」を合言葉にシュレーダー政権が実施した労働改革(特に失業保険給付の削減、短期雇用等の雇用形態の多様化)の果実を享受してきましたが、ショルツ政権についても、その恩恵を受けつつ、目指すところの気候変動対策を重視する政権運営をすることで当面大きな問題は生じなさそうです。 一方で、EU諸国そして米国、中国とのバランスには相当難しいかじ取りが求められそうです。まずEUについて、メルケル時代には①南欧諸国との対立、②東欧諸国との対立、③西欧諸国との対立が生じました。①について、09年10月のギリシャ発欧州債務危機以降、ドイツと南欧諸国の経済格差は広がりました。ドイツが厳しい緊縮財政を要求したことで生じた軋轢は残っています。②について、15年9月のドイツによる無制限難民受入政策に伴う東欧諸国の移民受入負担(ドイツに到着する前に東欧諸国を通過することになるため)や東欧諸国の中国の一帯一路政策に対する姿勢をトリガーに、ドイツと東欧諸国の間には溝ができています。③については、英国離脱に伴い権力がドイツとフランスに集中しそうになったところ、西欧小国8か国(オランダ、アイルランド、デンマーク、フィンランド、スウェーデン、エストニア、ラトビア、リトアニア)が新ハンザ同盟として対抗軸を打ち出しています(ちなみにEU域内のGDP比率でみればドイツは全体の24.8%、フランスは17.4%、新ハンザ同盟は16.4%となり、フランスに近い規模になります)。 難民受入については既に大きく軌道修正がされていること、ドイツは第二次世界大戦の反省からできる限り目立つことを避け、パートナーの意見を尊重する傾向が強いことを考えれば、②と③についてはそれなりに対応可能でしょう。しかし、①の経済問題については、国内世論を意識しつつ、域内の経済格差を抑えながらEU深化を目指すという難しい舵取りが求められそうです。 経済格差の調整が難しい主な理由は、ドイツにとって永遠の割安通貨であるユーロに原因があります。言ってしまえば、ドイツの国力に比して、ユーロという通貨の価値は低すぎるのです。具体的には、割安通貨のおかげでドイツ製品の価格競争力は高く維持され、製品力も相まってどんどん売れる状況が続いています。事実として、2000年以降の世界における経常収支黒字額のトップ国を振り返るに、2000~2004年は日本の時代、2004年~2009年は中国の時代、そして2010年以降はドイツの時代と言われます(パンデミック特需などで中国のほうが若干上回った年が数年ありましたが)。中国とドイツの経済規模のサイズの違いを考えれば、絶対額としてドイツの経常収支黒字が中国を上回っているということは、相当な規模の黒字を生み出しているということになります。もっとも、割安なユーロの恩恵に預かれるのはフランスなどその他西側諸国も同様じゃないかという話もあります。この点については、もともとの強い製品力に加え、シュレーダー改革で労働コストを下げたドイツの地力が、他の西欧諸国を圧倒しているということに他なりません。ユーロ安の恩恵を特定の国が受けている状況は、国力からしてユーロが割高通貨になっている国からすれば、極端な話、搾取の構図のように映ります。ショルツ政権のチャレンジは、いかにドイツの黒字経常収支をEUに還元する筋道をつけられるかということになります。「人権」や「環境」という欧州共通の価値観で勝負するドイツにとって、EU崩壊は必ず避けなければなりません。従ってショルツ政権は、ドイツユーロ圏共同債発行含め、財政統一の点でかなり踏み込んだ提案をしてくるのではと考えています。 欧州域外の国との関係、米国と中国との関係についても考えてみましょう。まず米国については、トランプのような露骨な攻撃はないにせよ、バイデン政権としてもドイツの対米国貿易黒字が大きすぎることは問題視しています。とはいうものの、先述のように永遠の割安通貨ユーロが存在する以上、この点は解決が容易ではありません。そうなると米国としては、貿易黒字についてある程度目をつむるのならば、ドイツの対中国、対ロシア対応については、自分の利益に資するようなものにしてくれるのかという話になります。 実はメルケルは、就任期間中に中国をかなり贔屓にしてきました(例えば在任期間中、訪日はサミットを除けば3回のみだった一方、訪中は12回も実施)。ドイツ貿易に占める各国割合を見ると、メルケルが就任した2005年に中国は4.4%、当時割合として最大だったフランスは9.4%、続く英国は7.0%でしたが、2020年にはトップ外交の効果あってか中国が9.5%と躍進し、フランスと英国は6.6%と4.6%に大きく減少しています。今では、ドイツ車3台に1台は中国向けと言われます。このようにドイツは経済的に中国に相当依存するに至ったわけですが、米国との関係を考えれば、またショルツ政権が「人権」や「環境」という価値観を軸に据えていることからすれば、経済重視の中国外交は修正がなされる可能性は高いと考えられます。ロシアについても、ロシア‐ドイツ間のガスパイプラインプロジェクトのノルドストリーム2により両国の距離はぐっと縮まっていますが、現在過熱しているウクライナ問題の行方次第では、ドイツは米国やその他西欧諸国との関係を重視し、ロシアとの距離を大きく取ることになると思われます。 国内のみならずEU域内、そして米国と中国・・・ 複雑なパズルを壊さずドイツの成長を実現したメルケルは、やはり偉大な政治家でした。「50年後の歴史書にどのように描かれたいですか?」という質問に対して、メルケルは「彼女は労を厭わなかった」と書かれたいと答えたというエピソードもあります。数年後、メルケル時代を懐かしく振り返る日が来ることでしょう。
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- 2022.02.03
誰にでもチャンスがある時代だからこそ、今こそ真剣勝負を|渡辺章博インタビューVol.4
M&Aは単にまとめるものではなく、クライアント企業を成功に導くもの ーー 今後いろいろなことで変化が起こると思うんですけれど、GCAにとっても激動の時代だとは思います。GCAの役割であったり、今後のGCAが目指すものはどうでしょうか? 渡辺 グローバル化を進めるということで、私どもも上場した以上、上場企業としての責任もやっぱりあるわけです。かつ、創業のときの「For Client's Best Interest」という理念を貫くためには、グローバル化を進めることによって成長していくことが必要です。そこで株主価値をつくりながら、日本企業の役に立っていくというモデルをやってきたわけです。 けれど、今は欧米がデジタル化の流れというか、これからのGX、つまりグリーントランスフォーメーションの流れを先取りしているような気がします。ですから、欧米が先取りしているものを、日本企業のために上手く活用していく。今までは、日本企業が海外に打って出ていくためのM&Aをサポートするということが大事な役割だったと思うんです。これはこれからも重要な役割であることには変わらないんですけれど、これからやらなくてはいけないことは、やはりそうやって先取りしている欧米のビジネスといったものを、いかに見極めて日本企業に取り込んでいくか。そういうことをサポートしていかなくてはいけない。 そのためには、我々は世界一のテックグローバルフランチャイズを持っているので、そこからいかに学ぶか。そして、その人達にとっても、日本の企業と組むことで、自分達のクライアントの価値を高めるという意識をつくっていく。それが私に課せられた経営の課題だというふうに思っています。 M&Aはまとめればいいというものではないんです。もちろん、私達はM&Aをまとめて成功報酬をもらいます。まとめることもすごく大事な仕事です。最近の日本では事業承継の仲介モデルが流行っています。M&Aの規模が小さければ仲介でもいいんですが、規模が大きくなると、いろいろな関係者の利害が絡んできます。この関係者の利害を調整するために必死で価格交渉をする。これはFA型と呼ばれる代理人モデルでないとできません。売り手にとっても買い手にとっても話をまとめて欲しい。それぞれの利益を代表したアドバイザーが真剣な価格交渉が行われて合意された案件は双方の利害関係者も納得するわけです。やはりまとめるということはとても大事なことなので、まとめることによって成功報酬をもらうというビジネスモデルは変わらないと思います。 金融機関だったら他にたくさんの金融ビジネスがあります。M&Aでは成功報酬狙いの案件をまとめて儲けるというそれだけでもいいのでしょう。でも私達が目指す独立系世界一というのはそれでは駄目なんです。お客さんが成長してくれて、またM&Aをやってくれないと、リピートクライアントにはならないんです。要するに、一発もので終わってしまってはサステナブルではないわけです。独立系M&A助言会社にとってはよいM&Aをまとめることによって、お客さんが繁栄することが大切です。 結局、日本企業が海外のM&A、あるいはベンチャーのM&Aが成功するポイントは、先ほどの話に戻りますが、学ぼうという姿勢が大事です。一方で、取り込んだビジネスの仲間達にハッピーになってもらわなければいけないんです。日本企業にM&Aをしてもらって、という表現がいいかどうかはわかりませんけれど、M&Aをしてパートナー企業になったことによってこんないいことがあった、という世界をつくらなければ、M&Aは成功しないんです。 GCAの強みであるグローバルネットワーク 私達が海外のM&Aで成功したのは、やはりそこが上手くいったということなんです。これは自分でも誇りに思っています。M&Aを繰り返す中で、グローバルなネットワークをいかしながらローカルなビジネスを伸ばすことをやってきたんですが、それが非常に上手くいった。 ローカルなブティックはグローバルネットワークを持っていないんです。こういった時代になると、たとえばヨーロッパでEコマースのビジネスを売却しますといったM&Aをアドバイスするときには、アメリカの会社にもリーチができるし、アジアの会社にもリーチができる。そういうことが、仕事をもらうための非常に大きなポイントになってきます。GCAのグローバルネットワークの中に入ることでM&A対象のブティック企業がどんどん成長するという成功の方程式ができました。言ってみれば、私の経営力ではなくて、グローバルプラットフォームがあるということだけで、私達のM&Aは成功してきたんです。 本当は、これが日本企業にも当てはまるんです。それはグローバルネットワークかもしれないし、日本の技術かもしれないし、日本人の優しさかもしれない。それはわかりません。やはり投資してもらってよかったな、というふうにM&A対象企業の社員に思われない限りM&Aは成功しないのです。そういう成功の方程式みたいなものを日本企業に認識してもらう。そのやり方だと上手くいくんだということのネットワーク化というか、ナレッジシェアリングしていくということが、次にGCAに課せられている使命のような気がします。 GCAを使っていただいているお客様は皆成長していますが、私はこれをとても誇りに思っています。クライアントが成長しているというのは、我々がちゃんとしたM&Aのアドバイスをしている証拠だと思いますし、そういった良いお客さんがつくことが我々のビジネスの信用にも繋がってきて、非常に良い循環になるということなんです。 ーー なるほど。グローバルのネットワークがあるという強みを今後もしっかりといかしていくことで、自社のお客さんに対する価値も上がるし、ひいてはお客様が成功に向かっていくことのお手伝いになるというところですよね。 渡辺 そうです。もう1つ、日本の会社のために本当に役に立とうと思うと、実は次の段階でやらなくてはいけないことがあるんです。GCAの欧米のネットワークはやはりテックに偏りすぎているんです。これはいいんですが、日本の会社にとっては、バリュエーションがとても高いテックの会社をいきなりM&Aするということが、本当にハードルが高いということがよくわかったんです。これからは成熟型のビジネス。たとえばコテコテの製造業もいいですし、なんでもいいです。そういう海外企業をM&Aをする。海外とくに欧米はデジタル化が進んでいるので、そういった成熟型の会社でもすでにDX化に取り組んでいて、ベンチャーをたくさん買収していますし、ベンチャーの活かし方を知っているマネジメントの人がいるんです。そういうM&Aをすることで日本のDXとかGXというものは進めていくのも一つの手段だと思います。 コロナになってGCAはBIZITというオンラインプラットフォームの会社をM&Aしました。ここは海外のM&A案件を紹介するプラットフォームです。このプラットフォームを通じて、小規模・中規模程度のM&Aを日本企業に紹介していきます。 M&Aしていない地域では海外のブティックと提携しながらやっていますので、それをさらにBIZITと上手く組み合わせることが第一段階です。次に我々自身がグローバルの今までのテックに加えて成熟産業、ノンテックのM&Aネットワークをつくります。そうでないと日本のお客様の役には立てないと思っています。特に10年スキップしてしまったので、ここのスピード感を取り戻すためには、やはりもう一段M&Aをしなくてはいけないのかなと思っています。 誰にでもチャンスがある時代だからこそ、今こそ真剣勝負を ーー このメディアの読者さんである経営者の皆様にメッセージをお願いします。 渡辺 私達も含めて、いままさに本当に真剣勝負で経営をしないといけない。来年は今年から続いているんだ、という意識ではいけない。このパンデミックで冷や汗をかいたわけじゃないですか。おそらく景気は急速に回復すると思うんですけれど、そこで冷や汗をかいたものが乾かない内にアクションをとらなくてはいけないということは、本当に強く申し上げたいです。 リモートワークが進んだり、郊外に行ってワーケーションということをやったりとか、そういうこともどんどんやられていると思いますが、日本の大企業のおじさん達というのは、ちょっと気を緩めると、すぐに元に戻ると思うんです。「景気が戻ってよかったな」「パンデミック怖かったな」ということで、過去のものにしておしまい、ということであってはいけないんです。 日本の経営者の皆さんは、パンデミックのあいだ会食もなく、私も含めてですけれど、お家時間の中で本当に真剣に経営をしたと思います。経営者の仕事は、やはり頭を使うことなんです。けれど、頭を使うとお腹がすくんですよね。食事の時間が楽しみになるくらい、動いていないのにお腹がすくくらい頭を使うということを、皆さんされたと思うんです。そのときに、やはり進むべき道はこうだ、ということがあったはずなので、それをしっかりとやっていく。それは、いろいろな手段を使ってやっていくべきだと思うんです。 その際、我々のようなアドバイザーも活用していただきたいし、アクティビストみたいな人達の中にも、バリューアクトなど非常に評価の高いエンゲージメントファンドがありますから、ああいう人達の手を借りるとか。あるいは、ファンドの手を借りて一度非公開化して、ビジネスのトランスフォーメーションをしていくとか。今はもう、いろいろな手段というのがあるわけです。そこで、いやいや、自分にはもう成長しかないんだというのであれば、インフレが本格化する前に、まだ低金利ですから、今の内にレバレッジをかけてM&Aをするという手段もあるでしょう。そういったことで、とにかくアクションをする。景気が回復して、もう大丈夫だというふうに思わないでやっていただきたいということが、私が今一番お伝えしたい事です。 今の日本の状況で私がすごく危機意識を持つのは、大企業のサラリーマン経営者の方々が、短期思考に陥っているということです。いわゆる、短期での成果を出さなきゃという思考です。言ってみれば、四半期の決算至上主義。今はマイクロIPOみたいなことが本当に多いじゃないですか。本当に必要なリソースがないうちに、クリティカル・マスというか、そういったものがないうちにIPOしてしまって、結局四半期報告に追われてしまう。 日本のベンチャーコミュニティは歪んでいますよね。ちょっと上手くいくと、金融の人達がすぐによってたかってIPOさせたがる。日本では上場しているということが偉いように思うところがある。上場しておいてお前がそんなことを言うなよ、と思っているかもしれないけれど、私自身、早く上場したことのデメリットをすごく感じている人間なので、そういったこともすごく大事だと思います。マイクロIPOじゃなくて、ベンチャーが必要なリソースというのは、実は今やお金ではなくて、人材です。企業の成長のステージに合わせた人材が適時適材適所で入らないと、ベンチャーは本当に育たないんです。 アメリカのイノベーション/スタートアップソサエティのいいところは、それができているというところです。最近はSPACが出てきて、皆眉をひそめていますけれど、あれだけ資金があると、あれもありだなと。SPACスポンサーの人達が適時適材適所のタイミングをわかっているスポンサーであれば、SPACとの合併による上場もありですよね。日本のベンチャーからもそういう取組みが出てきています。日本では何かというとすぐにユニコーンが少ないという議論になってしまうんですけれど、ユニコーンでなくても革新的なベンチャーはたくさんあります。 皆チャンスは等しくある。これからとんでもない変革が起きるかもしれない。別にGAFAが未来永劫、10年20年あのままで行くというのはあり得ないんです。そういう意味では、皆さんにチャンスがある。その中で、そういったソサエティの人達にも、上手く大企業の経営資源なり何なりを上手く使っていただくということをやるのも、我々の役割だと思っています。等しくある。これからとんでもない変革が起きるかもしれない。別にGAFAが未来永劫、10年20年あのままで行くというのはあり得ないんです。そういう意味では、皆さんにチャンスがある。その中で、そういったソサエティの人達にも、上手く大企業の経営資源なり何なりを上手く使っていただくということをやるのも、我々の役割だと思っています。 GCA株式会社 代表取締役 渡辺 章博|1982年、米国に渡りKPMGニューヨークにてM&A業務に従事。2004年にGCAを創業。2006年に最短で上場させ、その後、欧米でM&Aブティックを次々に買収。GCAをグローバル24拠点、500人のプロフェッショナルを有する日本発のグローバルM&A助言会社に育てあげた。米国・日本公認会計士。
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- 2022.01.25
欧米におけるM&Aトレンドの違いから見る日本企業生き残る道筋|渡辺章博インタビューVol.3
欧米と比べ日本では極端に少ないテック系案件 渡辺 GCAは2006年に上場しました。上場の狙いというものはクリアで、グローバルネットワークを自分達が構築するためのM&A資金の調達でした。日本の市場が少子高齢化でどんどん小さくなっていくので、企業はM&Aで海外に進出する必要がある。そのためにはGCA自身がM&Aを通じてグローバルプレイヤーにならないと日本企業のお役に立てないということでした。同時に上場企業の成長プランとして海外で成長するという戦略も掲げました。非常に単純な発想だったと思います。 けれど、今は変わってきた部分があります。それはあとでお話しますが、上場時点では我々自身がグローバル化しなければ、いいM&A案件をご紹介することもできないし、M&Aをしっかりと現地でサポートするということもできない。そういう思いがあったんです。上場をすることによって、そこで資金調達をして、グローバルなブティックをどんどん仲間に入れていくということがもともとの戦略だったんです。 それで2008年に、シリコンバレーのテックベンチャーをサポートするM&Aアドバイザリー会社をM&Aしたのを皮切りに、インド、中国、シンガポールでは現地法人を設立し、数年前はヨーロッパ、直近ではスウェーデンのESGに強いM&A会社をM&Aしてきました。そうやってグローバルネットワークを築いてきたんです。ですから、今の売上の8割は海外関連のM&Aです。欧米企業同士のM&AいわゆるOut-OutのM&A助言が売上の7割、日本企業による海外企業の買収いわゆるIn-OutのM&Aが1割で合計8割は海外のM&A助言からの手数料収入が占めている。そういうグローバルな会社です。ただ、私は日本人で、日本でビジネスを始めて、日本企業のために、という視点で申し上げると、8割の売上でどんどん伸びていることは、私としては、上場企業の経営者としてはたいへんハッピーではある一方で非常に複雑な気分になってしまいます。 私がつくろうと思った世界というのは、テックで、いろんなかたちで物事が繋がっていく世界。つまり、伝統的な日本の成熟産業も、必ず「〇〇テック」という世界につながっていくということをイメージして、もともとテックにフォーカスしたグローバルフランチャイズをつくろうと思っていたわけです。それは上手くいったわけですけれど、この1年のパンデミックが起きてから驚くべき事態になりました。欧米のテックのM&Aが火を噴いたのです。欧米でどんどんテックM&Aの案件が成約しています。パンデミックでデジタル化が急速に進む中で、欧米の経営者はそれはもう物凄い勢いでM&Aでデジタルの人材を取り込んでいます。素晴らしいアルゴリズムを書ける人達をどんどん取り込むM&A。大企業だけでなく中堅の事業会社や投資ファンド、さまざまな買い手がパンデミックで恐怖を味わったテックベンチャーを呑み込む、そういった案件が爆発しているわけです。その中で日本を振り返って見ると、全然その手のテック案件が出てきません。GCAにはテックベンチャーを大企業に売却するGCAテクノベーションという会社があります。この会社はベンチャーコミュニティの中でもそれなりの存在感があります。にも関わらず、日本では本当にテックのM&Aが少ないためにGCAのグローバルテックフランチャイズでは存在感がなくこのプラットフォームを活かせない。これには本当に問題意識を持っています。 売上至上主義からの脱却と企業の真の価値への注目 ーー 5年10年を見据えたときに、今後のM&Aはどう変わっていくと思われますか? 渡辺 日本企業のためにお役に立つためには、テック系の案件が少ないというトレンドの背景に潜む日本企業の意識を変えていかなくてはいけない。日本人というのは売上規模を重視する傾向があるんです。それから、企業の格というものもすごく気にします。 たとえば、1兆円の売上の会社というのは、10億円の会社を馬鹿にするわけです。これでは駄目なんです。皆さんもそうだと思いますけれど、ベンチャー企業は皆小さいわけです。だけれども、大企業にとっては、自分達がデジタル人材を持っていないんだから、その貴重な人材を取り込まなくてはいけない。そのリソースを取り込むときは、大企業もベンチャーも対等なんです。むしろ、ベンチャーのほうが偉いんです。けれど、ハッキリ言うと、この意識がないわけです。それはなぜかというと、大きな規模の会社が偉いとか、売上のあるところが安心できる、みたいな価値観があるからです。 ところが、世界の市場はもはやそうなってはいないわけです。売上が0でも、何兆円というバリュエーションがつくようなベンチャーがあるわけです。それはどういうことかというと、今の社会は、どういう価値をうむのか、ということが重要なんです。つまり、過去の売上ではないわけです。この感覚がまだまだ日本の経営者というか、日本のソサエティがそこを認めていないというところが、すごく大きいような気がします。 M&Aをやるにしても、少しガッカリしてしまうのは、売上を増やすとか、トップラインを増やすとか、成長をしているかのような演出をするためのM&Aみたいなことをしているわけです。これも否定はしませんし、大事なことです。ただ、それがM&Aだと思っている人が結構多いのは、ちょっと問題だと思っています。 最近私達がJSRという会社さんの合成ゴム部門を売却したという案件をお手伝いしたんですが、これは、ビジネスをされている方々からはたいへん衝撃的に見られているんです。どこが衝撃的かというと、それで売上の3分の1が減るわけです。日本の会社さんは買うのが好きで、売るのは嫌いだったわけですけれど、それはなぜかというと、売ることも大事だとわかっているけれどできないのは、売上至上主義があったからだと思います。JSRは3分の1の売上を失ったわけですけれど、その結果、ライフサイエンスとか、半導体とか、そういった付加価値の高いビジネスに特化するということが評価されて、株価が倍くらいになったんです。これはもう、株式市場の価値、株主の価値をうみ、年金の価値をうみ、我々もソサエティの価値をうみ、JSRという会社のグローバルの信頼関係というか、評価というものを高め、そこに優秀な人材が集まり、非常にいいサイクルができるわけです。 こういったようなM&Aを私どもがサポートしていくことによって、日本人の意識を変えていかないと、結局ベンチャーというものはいつまでたっても胡散臭いものに見られたままになってしまいます。 ーー そのような例で言うと、Googleが名もないベンチャーであったりとか、数人のスタートアップを買収していますよね。 渡辺 GoogleのM&Aは素晴らしいですよね。GAFAの人達のM&Aは本当に上手く考えています。昔はそういった経営者も日本にたくさんいたんです。代表的な人は松下幸之助さんです。松下幸之助さんは、実はM&Aの天才だと思っています。その当時は我々のようなM&Aアドバイザーがいなかったんですけれど、日本興業銀行の中山素平さんという人が、倒れ掛かっている会社をなんとか再生してくれないかということで、松下幸之助さんに会社の買収を頼んだんだそうです。その会社が全国津々浦々にあって、それをコングロマリット経営で成長させてきた。 一方でJVC日本ビクターのようにブランドを残して、そこに新しい価値をつくらせるというPMIもやった。たとえばVHS。皆さんはそういう世代ではないかもしれないですけれど、それを開発したのはビクターじゃないですか。日本ビクターという会社はそういう会社なんだということを松下幸之助さんはPMIの手法を使い分けてイノベーションの火が消えないようにした。PMI手法を本当に上手く使い分けてM&A経営をやってきたのだと思います。Googleもそうじゃないですか。YouTubeのマネジメントに独立性を尊重する一方で、競争相手になる前にスタートアップを買ってしまうとか、ケースバイケースでM&Aを本当に戦略的にやっていますよね。 「人から謙虚に学ぶ姿勢」と「共感をうむ企業姿勢」 ーー 今後の日本企業の話でいうと、そういった優秀なベンチャーを売上で評価せずに、しっかりと技術を見たり、人を見たりする。今後の日本がそうなると思われますか?逆に、なるのであれば何が必要だと思われますか? 渡辺 人から学ぼうという謙虚な姿勢が大切だと思います。今はダイバーシティとかいろいろなことが言われていますけれど、ダイバーシティとかESGを押しつけのように感じているようでは、企業の成長というものはないと思うんです。ダイバーシティも結局、女性であったり、外国人であったり、そういった人達が、自分が持っていないものを持っているから、そこから学びたいという謙虚な姿勢がないと形だけになってしまいます。自分が持っていないものを持っている異質の人と力を合わせるということで価値がうまれる。私がGCAを立ち上げたときに、その大切さをすごく学んだんです。 大きくなってしまった会社というのは、人から学ぼうとか、違うものから学んでいくという謙虚な姿勢がなくなっているような気がします。80年代の、アメリカが本当にドツボだった時代に私はアメリカにいたんですけれど、その後のアメリカの成長を見ていると、単純にITが情報化社会になったとか、そんなことではなく、当時の日本企業から学ぼうとか、そういったことを本当に皆さん真剣にやっていたことが今日に結びついたんだと強く信じます。アップルだって、大企業から技術を盗んで、学んで、それを大きくしていくということをやってきたじゃないですか。 だから、やっぱり人から学ぶ謙虚な姿勢というものが、私は本当に大切だと思います。やはり、それがない会社が駄目になっていくんだと思うんです。謙虚に学ぼうと思ったらM&Aにたどり着くわけです。自分に持っていないものを、ぜひ分けてくれ、と。そのM&Aした対象企業をの社員をリスペクトして、その人達の能力をいかにして引き出すか、ということですよね。 ーー そもそものスタート地点から、そういった姿勢が一番大事だろうということですね。 渡辺 もう1つ、やはりこれからの経営で必要になってくるのは、共感ということだと思います。今の姿勢の問題と少し近いところもあるかもしれませんが、共感をうむような企業姿勢なり、そういうことを持っていないところには人材が集まらないわけです。先ほど申し上げた株主資本主義ではなくこれだけ格差が広がってしまった地球環境の問題やいろいろなことに関して、儲けるだけではなくて、どう社会の課題解決に貢献していくか。貢献しながら儲けることもちゃんとやっていく。そういう両利きの経営といいますか、そういったことが必要とされるわけです。そこのポイントが共感性なんじゃないかと思います。 GCA株式会社 代表取締役 渡辺 章博|1982年、米国に渡りKPMGニューヨークにてM&A業務に従事。2004年にGCAを創業。2006年に最短で上場させ、その後、欧米でM&Aブティックを次々に買収。GCAをグローバル24拠点、500人のプロフェッショナルを有する日本発のグローバルM&A助言会社に育てあげた。米国・日本公認会計士。
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- 2022.05.16
「リーダー」の視座とは
荒川詔四氏 | 株式会社ブリヂストン 元代表取締役社長・CEO 第198回 M&A研究会(2022年4月開催分)ダイジェスト 荒川氏は新卒でブリヂストンへ入社後、タイ・中近東などで海外キャリアを積み、40代で海外部門の課長職から突如、社長秘書職へ抜擢されます。そして社長の参謀役として、当時日本企業最大のM&Aであるファイアストン社の買収に深く関わり、これがブリヂストンのグローバル・ジャイアントへの礎となりました。豊かなご経験から紡がれた「荒川流リーダーの心得」の数々、ダイジェストにしてお届けします。 生き残るために、グローバル・ジャイアントへ 34年前、ブリヂストンが米国の国民的企業であるファイアストン社を買収した際、事務方として深く関わりました。タイヤは国際規格商品で、早くからグローバル化した業界です。競争を勝ち抜くうえでは、規模が非常に重要なファクターとなります。当時、業界全体の生産能力過剰と業績不振を背景に、業界再編の動きが拡がっていました。対象会社は合弁先であり、1日1億円の赤字を出していた斜陽の会社です。ピレリ&ミシュラン連合とのTOB合戦、クロージングまで2か月という難条件でしたが、トップは「このチャンスを逃すと会社の将来は無い」という強い危機感と、長年考え続けた「あるべき姿」実現のチャンスだという決意をもって、買収を敢行しました。「本体より大きい財務不良会社を高値掴みした」と、内外で批判の嵐に晒されましたが、この買収をトリガーに、ブリヂストンは今日のグローバル・ジャイアントへ「変革」しました。 会社の変革を可能にするリーダーとは 「会社を変革する戦略」とは、「理想の姿を実現する戦略」と言い換えることができましょう。では、理想の姿とは何でしょうか?私は必ず「ユニークな1位」を目標に描くべきだと答えます。従って存在感のある2位、価値ある3位などは単なる逃げ口上でしかなく、変革には禁句である、そう考えます。そして、この変革の成否を左右するのが、プロフェッショナルリーダーの存在です。常に「理想」から思考を出発させ、理想の実現に向かってありとあらゆる努力を惜しまず、メンバーの納得・共感を得ながら組織を育て、確実に結果を出す。リーダーシップの本質は洋の東西を問わず普遍です。 リーダーは「本物の小心者」たれ リーダーというと豪胆なイメージを持たれるかもしれませんが、「小心な楽観主義者」が最強だと思っています。新卒2年目で海外に放り込まれ、苦労の連続で学んだことは、相手を無理やり動かすなどできないということでした。ただ、繊細なだけではダメです。様々な失敗の経験が繊細な神経を束ね、強靭な神経を作ることができるのです。 わたしは80ヶ国以上での業務経験を経て、3現(現物、現場、現実)が仕事の基本であり、ビジネスの世界では行動が全てだと思うに至りました。 「順調にトラブル」の意とは 部下からの“上手くいっている”という報告は、経営情報としては価値がありません。何かに取り組めばトラブルが出るのは当たり前ですので、トラブル自体を気に病む必要はなく、起きたトラブルにこそ価値があると考えています。社長時代には、不正防止という別の含意もあり、「私のところにはトラブルだけを持ってきなさい」と伝えていました。苦し紛れに、上手くいっていないことをあたかも順調だとでっち上げるリスクを下げていたのです。 これは会社に限った話ではありません、個人の人生も同じです。躓くことは普通です、順調にトラブルが起こっているから心配するな、私はいつも自分自身にも言い聞かせています。 リーダーは頼れる参謀を持て ビジネスにおいて参謀とは「知的な戦略家」ではなく、「戦略実行の補佐役」です。日頃からリーダーのビジョンや戦略を完全に理解し、脳を同期させておくことが求められます。しかしリーダーは、「裸の王様になるメカニズム」を内包していると思っています。だからこそ、時に直言し、リーダーの不完全性を補う参謀が必要なのです。また、危機の時には、リーダーの逃げ道を探すのではなく、共に正面突破策を考えるのが参謀の仕事です。どのような難局も、正面突破でしか道は拓けません。ごまかしは叩かれ、永遠に問題を解決できなくする方法です。 私も経営者となり、腹落ちしたのです。指示・命令で動くのは単なる「部下」であるということを。経営と現場の繋ぎ手として機能し、「ダメなリーダーならば使い物になるようにする」のが真の参謀なのです。 パネルディスカッション ファイアストン社の買収の第一報を、当時米国で勤務していた弊社会長の渡辺は、手にしたウォールストリートジャーナルで知りました。その時の鮮烈な記憶をたぐりながら、日本企業のM&Aによる海外市場獲得の先駆けとなった本ディールについて、詳しく伺いました。 ■ディスカッショントピックス・「新卒2年目ポジションなし」が海外の現場で学んだこと・ポジションがないことで実力が試される・「買う」だけならお金があればできる。大事なのは「買ったあと」・危機意識を持ち、将来世代で結果を出すことを意識して「本業をM&A」する・経営陣の覚悟と現場の総合力で成し遂げたM&A・買収先をパートナーとして尊重すること・経営とは実行力である M&A研究会とは 法人向け有料会員制(月5万円 税込)のフーリハン・ローキーM&A研究会(旧GCAクラブ、以下「M&A研究会」)は、M&A関連の知識、実務を広く共有していただく場の提供を目的として、2005年11月の設立以来、数多くの企業様にご愛顧いただいております。 各会員企業様毎にフーリハン・ローキーの担当者を配置し、M&A関連の各種ご相談を承っております。現在、メーカー、IT、小売、サービス等多種多様な業界のリーディング企業を中心に、多数ご入会いただいております。 フーリハン・ローキーのプロフェッショナルに加え、M&Aに関連した法務、会計、税務等の専門家や実務経験豊かな経営者などのゲストスピーカーを講師に招いて、毎月M&A研究会セミナーを開催しております。 今後の開催予定はこちら。 【お問い合せ先】M&A研究会事務局お電話(03-6212-7388)または問い合わせフォームよりご連絡ください。
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- 2022.05.11
【出演報告】BSテレ東『マネーのまなび』に渡辺章博が出演しました
2022年3月31日放送のBSテレ東『マネーのまなび』に渡辺章博が出演しました。コロナ禍で加速する業界再編。その中でM&Aをどう捉えるか。昨年M&A案件数は過去最高を記録しましたが、その急増の理由を、元財務官僚で報道番組キャスターを務めた経歴でも知られる村尾信尚氏が弊社渡辺にインタビューしました。 ■番組名:「日経スペシャル マネーのまなび」■番組テーマ:急増!M&Aのキーパーソン直撃 M&Aに対する日本人の考え方の変化 ― 日本でM&Aがかなり増加しています。その実態はどうでしょうか。その背景には日本人のM&Aに対する考え方の変化もあるのでしょうか。 渡辺 少し前まではM&Aというとなにか特別なことでしたが、いまや中小企業の事業承継など、いろんな所でM&Aはより身近なものになってきました。日本ではこれまで売却というと非常にネガティブで、いまだに「身売り」とか「買われる」というような言い方をして、何か負け組みたいに捉えられてきました。しかし、必ずしも売るということは悪いことではない、ネガティブではない、社員にとってもお客さんにとっても社会にとっても悪いことではないという認識が徐々に広がりつつあります。その中で、日本のM&A市場が非常に活発になってきたということではないでしょうか。 村尾 おっしゃるような風土が日本に根付いてくると、M&Aがすんなり受け入れられるのでしょうね。 渡辺 結局、皆さんの賃金が上がってくるわけです。買った会社が強くなってきて、たとえばこれからインフレになりますという時に、市場シェアが高い会社は値上げすることも簡単にできます。値段を上げることが楽になればインフレだからといって社員の賃金を下げることはなく、むしろ賃金を払って優秀な人たちをどんどん集めるという好循環が生まれます。ところが規模が小さい、日本のように会社の数が多いというと、いつまでも競争するのでインフレになっても値段を上げることはできない。原材料の調達は上がってくる、政府からは賃金あげなさいではやってられないですよね。 M&Aで幸せになる優先順位 ― 企業を買収する際に難しいのは従業員の処遇といわれます。M&Aが成功するにはその優先順位が必要だといいますが。 渡辺 M&Aでは幸せになる順番が重要です。その順番を間違えるとM&Aは失敗だと言われることになってしまいます。買い手が先に幸せになろうとすると、だいたい失敗します。対象企業の人たちが最初に幸せにならないとM&Aはなかなかうまくいきません。というのは、大きな対価を払って何を手に入れたかというと、究極的には「事業」を手に入れたのであって、その事業を構成しているのはやはり人です。その買収で対象企業の社員に対価がいっているわけではありませんから、社員が自分たちにとって本当に良かったと思うまでは不安なことが多い。いろんな不安があるわけですから、まずそこをマネージしなければいけない、これがPMIです。そして、その次によかったということが実際にビジネス面で生まれないといけないわけです。今までは小さな会社だったが大きな会社と一緒になったことによって、お客さんによいものが提供できる、値段の競争で負けない、と思わせることが重要です。この順番を間違えてしまうと絶対にうまくいきません。 日本経済に求められる課題にM&Aが大きく動く可能性 ― 日本経済に求められる課題の一つであるデジタル化、グリーン化に関連したM&Aが大きく増加しそうな気がしますが、いかがでしょうか。 渡辺 コロナをきっかけに、ESGそしてデジタル化は一層重要なファクターになってきています。我々の仕事の一つにベンチャー企業の売却のお手伝いがあります。日本ではベンチャーというとIPOを第一優先する傾向がありますが、欧米ではベンチャーが大企業に買収されるというマーケットが存在します。大企業は社内でイノベーションを起こすことが難しいですし、急速にデジタル化が進むと時間が足りません。M&Aは時間を買うという効果がありますから、ベンチャー企業を買収する取り組みがこの2年間とくに欧米では活発になりましたが、日本は若干出遅れました。 日本経済の効率化のためのM&Aの活用 ― これから日本で経済の効率化、産業転換を図っていこうとしたときに、よりM&Aが活用されるようになるポイントはなんでしょうか。 渡辺 やはり、人の問題です。労働法の問題など、日本は変わっていかなければいけない課題だと思います。 最後に、村尾氏はOECD加盟諸国の時間当たりの労働生産性を取り上げ、日本が下位でありOECDの平均も下回ること、生産性の低さが日本の経済を考えるときに非常に重要なポイントであることを指摘しました。生産性が高まれば給与も上がってくる、そしてM&Aが企業の生産性を高めていくひとつの手段になれば、日本経済全体としてもいいことだと思うと締めくくりました。 「日経スペシャル マネーのまなび」についてhttps://www.bs-tvtokyo.co.jp/moneymanabi/ 渡辺が出演した放送回は「テレ東BIZ」にて有料配信されていますhttps://txbiz.tv-tokyo.co.jp/moneymanabi/vod/post_248892
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- 2022.04.14
丸井グループの共創サステナビリティ経営
青井浩氏 | 株式会社丸井グループ 代表取締役社長 代表執行役員 CEO 第197回 M&A研究会(2022年3月開催分)ダイジェスト 小売と金融が一体となった独自のビジネスモデルを進化させてきた丸井グループ。近年は、エポスカードを核としたフィンテック事業を拡大し、新規事業領域立ち上げのための人材への無形投資やベンチャー投資を積極的に進めることで、企業価値を更に拡大させています。講演では、事業活動のベースにある『共創』という考え方と、すべてのステークホルダーと共に進める「共創サステナビリティ経営」について、事例を交えてお話いただきました。 信用はお客さまと共につくるもの 家具の月賦商からスタートした丸井は、時代やニーズの変化に合わせて、小売と金融が一体となった独自のビジネスモデルを進化させてきました。業績はバブル経済のピークに最高益を記録した後、バブル崩壊とともに急落し、その後は長い停滞に苦しみました。そして、貸金業法改正やリーマンショックの影響で二度の赤字決算という深刻な経営危機に陥る中、創業の原点を問い直し、事業構造の大転換に乗り出したのが2011年のことです。 「信用は私たちがお客さまに与えるものではなく、お客さまと共につくるもの」―。創業者の言葉に込められた『共創』という想い。この精神に立ち戻り、商品やお店作りをお客さまとの対話を通して進化させつつ、これまでの商品を仕入れて販売する「百貨店型」の店舗から、テナントにスペースを貸す「不動産型」への転換といった取り組みにより業績は上向きに転じ、コロナ前の2021年3月期まで営業利益は11期連続の増益、同期の一株あたり利益は過去最高益を更新しました。 近年、この「共創」の考え方を、お客さまだけではなく、社員、株主・投資家、お取引先、地域・社会へと拡げ、それぞれとの「共創」活動を展開し、「すべてのステークホルダーの利益と幸せの調和(重なり)」を自らの企業価値と定義しました。ここでいう「幸せ」はサステナビリティとWell-beingであり、この実現を『共創サステナビリティ経営』として、強く推し進めてきました。 サステナビリティは自律的な企業文化から生まれる 私は、サステナビリティとは「本業を通じた社会課題の解決」だと捉えています。この実践のためには、まずは企業文化を、従来の「指示・命令・徹底」を旨とする上位下達型から、より主体的な自主自律型へ変革することが欠かせないと考え、2005年の社長就任以来、様々な施策に取り組んできました。 この一つとしてご紹介するのが「手挙げ」の文化です。きっかけは、幹部会議でも居眠りする人が後を絶たないことでした。考えた末に辿り着いたのが、会議の「手挙げ」参加制です。会議には希望する人だけを招く、希望者が多い場合には論文審査を通過したものしか参加できません。これで誰一人と寝なくなり、参加者のダイバーシティが拡がったことで活気が生まれ、内容も充実してきました。 手挙げ制の拡張、対話をベースにした場作りといった組織と個人の多様性を追求する継続的な取り組みと、業績に加え行動・成長や意欲といった「バリュー」にもフォーカスした人事評価制度の導入により、15年以上という時間をかけて会社は変わっていきました。 ESG活動の軸は「インクルージョン」 こうして築いた企業文化を礎に、約5年前にESG専任部署を設置し、その活動を本格化させました。活動の軸としたのは「インクルージョン」という姿勢です。「これまで見過ごされてきたものを包含し、取り込む」という言葉の意の通り、「すべてのステークホルダーの幸せの調和を目指す」という、自らの方向性を体現するものです。インクルーシブな店舗・商品開発、RE100への賛同といった活動と積極的な開示により、国際評価機関からの評価は小売業として世界1位へ、そして15年3月期以降、株価の伸びが利益の伸びを上回る、いわゆる「ESGプレミアム」も拡大しています。 オランダの先進企業から学んだサステナビリティ経営 ESGがどちらかというと株主の要望に応える受動的なものだとすると、サステナビリティはすべてのステークホルダーに向けた、より主体的なものだと考えます。本場であるオランダの先進企業を訪ねた私達は、長期的なビジョンの必要性を学びました。 「手挙げ」で集った社員と議論を重ねて作成した、2050年を目標とする長期ビジョン。自らのミッションを明らかにし、世界中の上場企業で初めて、将来世代をもステークホルダーとして明記しました。そして、昨年には財務指標とともに、サステナビリティとWell-beingに関わる目標を「インパクト」として設定し、各領域の専門家を取締役に迎え入れるという大胆なガバナンス改革を行いました。また、利益とインパクトを両立させるため、社内からのイノベーションの創出をめざす「新規事業投資」と、社外とのコラボレーションによるイノベーション導入を図る「共創投資」の両面から投資を拡大させていきます。 今後は、サステナビリティの主要なステークホルダーになる将来世代との共創を強化しつつ、社内外に開かれた『共創のプラットフォーマー』へ、丸井は更なる進化を続けていきます。 パネルディスカッション かねてより弊社会長の渡辺は、「青井さんの講演は心が洗われる」と講演を楽しみにしておりました。これまでの交流もあって、柔らかく活発な意見交換が行われました。 ■ディスカッショントピックス・将来世代をステークホルダーに含めようと考えたきっかけ~グレタ・トゥーンベリさんの国連スピーチ~・丸井のDNAである「信用の共創」の成り立ち・目に見えない「信用」の価値を考える・小売り出身の金融業だからこそ持てる感覚とは・コロナ禍は「お取引様とのパートナーシップを強化する試練」と捉える・「社員と社員の家族から寄せられた喜び」が、経営に気づかせてくれたこと・well-beingとは何なのか~適切な選択肢と自己決定が鍵~・ベンチャー投資先の選択基準~最後は「人」に投資する~ M&A研究会とは 法人向け有料会員制(月5万円 税込)のフーリハン・ローキーM&A研究会(旧GCAクラブ、以下「M&A研究会」)は、M&A関連の知識、実務を広く共有していただく場の提供を目的として、2005年11月の設立以来、数多くの企業様にご愛顧いただいております。 各会員企業様毎にフーリハン・ローキーの担当者を配置し、M&A関連の各種ご相談を承っております。現在、メーカー、IT、小売、サービス等多種多様な業界のリーディング企業を中心に、多数ご入会いただいております。 フーリハン・ローキーのプロフェッショナルに加え、M&Aに関連した法務、会計、税務等の専門家や実務経験豊かな経営者などのゲストスピーカーを講師に招いて、毎月M&A研究会セミナーを開催しております。 今後の開催予定はこちら。 【お問い合せ先】M&A研究会事務局お電話(03-6212-7388)または問い合わせフォームよりご連絡ください。
データ集Data
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- 2022.04.19
グローバル・ゲームセクターアップデート(2022年4月版)
レポートサマリー グローバル市場において、モバイル及びビデオゲーム業界はコロナ禍の中でも“Resilient”(強靭)な成長を見せており、相対的にコロナ前の水準を超える業績を達成、上場各社の時価総額も市場平均を”Outperform”したモバイル・PC / コンソールゲーム市場の合計は2018年-2022年で年間平均9.0%で成長、2022年で$200BN規模となることが予測されるM&Aもコロナ禍のネガティブインパクトを受けることなく、取引数及び取引金額の上昇が観測グローバル上場企業のEV/EBITDAマルチプル水準は、PC/コンソール及びモバイルのどちらも直近5年間において上昇傾向にある。PC / コンソールのEV/ LTM EBITDAマルチプルが12.3x-13.2(平均値-中央値)に対して、モバイルは9.6x-12.0xと、成長実績と収益率の差を示 詳細はPDFのレポートをご確認ください。文字が見えにくい場合、表示を拡大、またはPDFをダウンロードしてご参照ください。
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- 2022.03.23
日本企業による売却案件の動向と弊社アドバイス実績(2021年通期)
レポートサマリー 2021年の日本企業のM&Aは4,280件となり、過去最多となりました。日本企業はどちらかと言えば売却より買収への関心が高かったのですが、近年では国内・海外を問わず子会社、事業売却が増加しており、2021年は売却案件数でも過去最多となりました。M&Aにおいて「選択と集中」という言葉が使われるようになって久しいですが、最近は既存事業の絞り込みを意識した選択と集中ではなく、M&Aを活用した企業のトランスフォーメーション、つまり大規模な事業の入れ替え事例が増加しているように思います。例えば、日立製作所は昨年約1兆円でデジタルエンジニアリングサービス企業の米GlobalLogicを買収する一方で、日立金属を米投資ファンドベインキャピタルを中心とした日米ファンド連合に売却し、大きく事業ポートフォリオを入れ替えました。JSRも祖業であるエラストマー事業をENEOSに売却するとともに、米国の先端半導体材料メーカーの買収を実行しています。世界情勢が不安定になる中で、国内での「トランスフォーメーション」を意識したM&Aは今後も増加していくと思われます。 詳細はPDFのレポートをご確認ください。文字が見えにくい場合、表示を拡大、またはPDFをダウンロードしてご参照ください。
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- 2022.03.23
インダストリアルテックセクターアップデート(2022年3月版)
レポートサマリー コロナ禍で工場や倉庫の自動化・デジタル化のニーズが加速したことを背景に、インダストリアルテックセクター(マテリアルハンドリング、産業用ロボット、ファクトリーオートメーション、またこれらに関連するITやソフトウェア分野)に属する企業の多くは、コロナ前の水準を超える業績を達成している。好調な業績、今後の成長期待を受けて株価も上昇傾向にあるが、M&Aを有効に活用して売上拡大・収益性改善を達成している海外企業に比して日本企業に対する市場の成長期待は高くはなく、株価は伸び悩んでいる状況。その結果として海外企業のバリュエーションは高騰している一方で、日本企業は低下傾向にある(=業績の改善度合いに比して株価の上昇が限定的)。本セクターのM&A状況に関しては、パンデミック宣言時には案件数は一時的に減少したものの、2021年はコロナ前を上回る水準まで回復。特に大型案件が前年比約2倍まで増加し、平均EV/EBITDA倍率も17-18xと非常に高い水準で推移。SPACを通じた上場やソフトウェア関連の大型案件、日本企業による大型買収等、グローバルで見てもM&Aが非常に活況なセクターと言える。今後のトレンドとしては、物流・EC大手による自動倉庫の内製化やロボットメーカーとマテハンメーカーの統合など、バリューチェーンの垣根を超えたM&Aが増加すると思われる。世界的に見ても日本企業は本セクターにおける存在感が高いため、日本企業がグローバル再編の主役になっていくことが期待される。 詳細はPDFのレポートをご確認ください。文字が見えにくい場合、表示を拡大、またはPDFをダウンロードしてご参照ください。
スタートアップStart up
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- 2022.04.28
続・スタートアップのIPOの背景にある「不都合な真実」
前回の記事では、スタートアップのIPOの背景にある様々な問題について指摘した上で、スタートアップやベンチャーキャピタリスト(VC)の出口戦略として、IPOとM&Aによるイグジットを両建てで検討するプロセス(Dual Track)の可能性について論じた。 Dual Trackの詳細については、2022年4月15日に経済産業省から公表された『スタートアップの成長に向けたファイナンスに関するガイダンス』にも寄稿記事として詳細に解説をしている。そちらも併せてご参考頂きたい。 IPOとM&Aイグジットを比較検討する上で、売却価格は重要な要素となる。IPOプロセスとM&Aの買手からの最終オファーでのマーケットチェックを通じて、経済面(売出持分割合を含む)を最大化させることも可能だ。そこで今回は、Dual trackを検討する際の具体的な留意点についてご紹介したい。 対象となるスタートアップの選定: Dual trackによる負担は相応に発生する。全てのスタートアップがIPOとM&Aイグジットを同時に検討することが向いているとは言えない。例えば、他社との事業シナジーが見込まれる、想定IPO価格や人材面に鑑み上場コスト(デメリット)の方が大きい可能性がある等、M&Aのメリットが初期的に想定出来る企業が対象となる。また、主幹事証券から上場時の想定時価総額などの提示を受けている場合、その価格をベースにM&Aでの買手からの意向をヒアリングすることも考えられる。計画的なプロセス設計&マネジメント: IPOの検討を進めつつ、予め、買収候補となる企業とのコミュニケーションを行うことで、有力候補先の意向も把握しながら、Dual trackの実務的なプロセスを設計することが出来る。M&Aの競争環境を醸成することによるプロセス管理や状況に応じた軌道修正が必要になることもあり、単純なIPOの審査プロセスよりも高度な判断が求められる。役員/株主との事前合意: 経営陣や株主を含めたステークホルダー間で協議し、IPO/M&Aの選択の指標・基本条件(最低価格目線など)の設計をしておくことで、スタートアップのマネジメントを含めたディールチームが臨機応変に判断できるようにしておくことが重要。 実際に昨年から、M&Aイグジットが価格面でIPOを上回るケースも出てきた。もっとも、価格面だけではなく、スタートアップ自身が持続的な成長を続けていくために、株式市場から資金調達を行うほうが良いのか、大企業との協業を実現するほうが良いのか、両者のPros/Cons(長所短所)を比較した上で最終的な判断をするような実例が、今後さらに多く出てくるのではないだろうか。
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- 2022.03.10
スタートアップのIPOの背景にある「不都合な真実」
株式会社ユーザベースが運営する日本最大級のスタートアップ情報プラットフォーム『INITIAL』において、先日「Japan Startup Finance 2021」というレポートが公開されました。国内スタートアップの資金調達やベンチャーキャピタル/投資家の動向、また、IPO市場の動向などが網羅的に特集されています。 本レポートの『2021年 EXIT 環境振り返りと今後』セクション(P38 -P41)にて、当社メンバーがスタートアップのM&Aによるイグジットに関してコメントさせて頂きました。レポートは無料でダウンロードできますので、ぜひご覧ください。 レポートをダウンロード (INITIAL特集ページへ移動します) 1)主幹事証券が言わない不都合な真実 主幹事証券は、上場を予定している企業(発行体)に対して、たとえ、主幹事選定の提案の際に提示した株価よりも上場時の株価が低くなったとしても、予定通りの上場を勧めることが一般的だ。株価が低くても上場することを優先させる主幹事証券の理屈は、「上場後に企業業績を上げることで株価を上昇させ、次回の公募増資でより大きな金額を株式市場から上場をすればよい」というものであろう。 しかし現在、この発行体と主幹事証券の間にある「上場時の価格に関する期待値ギャップ」が問題視されている。2022年1月に公正取引委員会が公開した、IPOにおける公開価格設定プロセス等に関する報告書では、「証券会社が決める公開価格と、最初に売買が成立した初値の差が欧米より大きく、発行体が調達する額が低い」と指摘しており、公開価格をもっと高くすべきだと論じている。 また実際に、2017年以降のマザーズへの新規上場企業のうち株式売出しによる資金調達を実施した企業は、全体の5%にも満たない。公開価格を下げて上場させている主幹事証券の理屈どおりになっていないのが現状だ。 新株発行を伴うPO実施企業の割合 株価は、発行体の成長性や収益力などを投資家がどのように評価するか次第で決まるが、時価総額100億円以下の企業に対しては機関投資家が付かず、個人投資家が上場時の株価を支えているケースが多い。特に上場直後は情報の非対称性から株価に対するボラティリティが高い。しかし、上場後に情報公開が進むにつれ、株価は業績と連動するようになる。上場時の株価と2022年2月末時点の株価を比較すると、2020年~2021年の新規上場企業のうち85%が上場時初値を下回っているという事実もある(公募価格ベースでは62%)。 公開価格の妥当性以前に、スタートアップが未成熟なまま新興市場に上場してしまっている可能性もある。日本においてIPO時100億円以下の時価総額(公募価格ベース)の企業は2020年~2021年の新規上場企業のうち60%にものぼる。ベンチャーキャピタルが投資をしているスタートアップのイグジット方法としてIPOが選択される比率は米国では10%未満だが、日本では大半がIPOとなっている。これも早期に上場をさせたいという主幹事証券の事情によるものと言えよう。 上場時時価総額の規模別割合(公募価格ベース) 2)スタートアップのM&Aイグジットが増加 上場して株式市場から資金調達をし更なる成長を目指すのか、または、大企業に買収をされることで、大企業の持つ生産設備や営業ネットワークなどのアセットを活用することで事業を成長させていくのか、この2つを比較するスタートアップが増えている。2021年には、Paidy/Paypalなど、これまでにない規模のM&Aイグジットの成功事例が生まれた。 3)Dual Trackの可能性 スタートアップやベンチャーキャピタリストには、「投資先のイグジットの方法=IPO」と決め打ちすることなく、IPOとM&Aのイグジットを並行して検討するプロセス(Dual Track)を提案したい。先のPaidy/Paypal のケースのように、M&Aによるイグジットが価格面でIPOを上回るケースもある。もっとも、価格面だけではなく、スタートアップ自身が持続的な成長を続けていくためには株式市場から資金調達を行うほうが良いのか、大企業との協業を実現するほうが良いのか、総合的に判断してほしい。
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- 2021.09.14
【動画】月間600万人のユーザーを有する自社メディア「TABI LABO」運営
NEW STANDARD株式会社
BIZIT M&A
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- 2022.05.11
アイルランド/中小企業向けバーチャルオフィス・バーチャルアシスタントサービス事業
業種各種消費者サービス国アイルランド売却希望価格応相談直近の売上高$1.00MMEBITDA$0.2MM おすすめポイント 主に中小企業向けにバーチャルオフィス、バーチャルパーソナルアシスタント、電話代行などのサービスを提供するアイルランド企業国内で強固な顧客基盤を確立しており、26の郡で約750社の顧客にサービスを提供COVID-19の影響で中小企業によるリモートサービスやバーチャルサービス利用が一般的になっていることを受けさらなる成長の可能性有する 案件にご興味のある方はこちら 案件詳細(BIZITへのログインが必要です)BIZITでアカウントをお持ちでない方はこちら
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- 2022.05.10
マレーシア/小規模ブランド・クリエーター向けeマーケット事業
マレーシア/小規模ブランド・クリエーター向けeマーケット事業 業種インターネット販売国マレーシア売却希望価格$6.2MM直近の売上高$1MMEBITDA非開示 おすすめポイント マレーシアの小規模新興ブランドやクリエイターコミュニティを育成することを目的としたeマーケットプレイスを運営する企業2020年にマレーシアで創業し、2022年第1四半期にはシンガポールとインドネシアに事業拡大予定2020年第3四半期にNASDAQ上場企業よりシード資金を獲得小規模ブランドオーナーから強い支持と信頼を得る 案件にご興味のある方はこちら 案件詳細(BIZITへのログインが必要です)BIZITでアカウントをお持ちでない方はこちら
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- 2022.05.10
マレーシア/ニョニャ料理・カンプン料理のレストラン事業
マレーシア/ニョニャ料理・カンプン料理のレストラン事業 業種レストラン国マレーシア売却希望価格$5MM直近の売上高$3MMEBITDA$0.8MM おすすめポイント マレーシアのニョニャ料理・カンプン料理レストラン創業者は地元のニョニャ料理愛好家であり、異文化と現代料理をコンセプトにニョニャ料理とマレーシア独自のカンプン料理の方法論を融合した料理で高い知名度と受賞歴を持つニョニャ料理のフランチャイザーとして初めて政府から認定を受け、2年で6店舗を展開食品加工技術の開発に注力しており、JAKIMハラール認証を保持 案件にご興味のある方はこちら 案件詳細(BIZITへのログインが必要です)BIZITでアカウントをお持ちでない方はこちら
当社についてAbout us
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- 2022.03.23
日本企業による売却案件の動向と弊社アドバイス実績(2021年通期)
レポートサマリー 2021年の日本企業のM&Aは4,280件となり、過去最多となりました。日本企業はどちらかと言えば売却より買収への関心が高かったのですが、近年では国内・海外を問わず子会社、事業売却が増加しており、2021年は売却案件数でも過去最多となりました。M&Aにおいて「選択と集中」という言葉が使われるようになって久しいですが、最近は既存事業の絞り込みを意識した選択と集中ではなく、M&Aを活用した企業のトランスフォーメーション、つまり大規模な事業の入れ替え事例が増加しているように思います。例えば、日立製作所は昨年約1兆円でデジタルエンジニアリングサービス企業の米GlobalLogicを買収する一方で、日立金属を米投資ファンドベインキャピタルを中心とした日米ファンド連合に売却し、大きく事業ポートフォリオを入れ替えました。JSRも祖業であるエラストマー事業をENEOSに売却するとともに、米国の先端半導体材料メーカーの買収を実行しています。世界情勢が不安定になる中で、国内での「トランスフォーメーション」を意識したM&Aは今後も増加していくと思われます。 詳細はPDFのレポートをご確認ください。文字が見えにくい場合、表示を拡大、またはPDFをダウンロードしてご参照ください。
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- 2022.02.22
フーリハン・ローキーへの社名変更について
このたびグローバル投資銀行Houlihan Lokey(NYSE:HLI)は、日本およびその他アジア太平洋地域におけるブランドについて、GCAからフーリハン・ローキーへ変更することを発表しました。これに伴い、GCAアドバイザーズ株式会社は、2月22日にフーリハン・ローキー株式会社へ社名を変更し、経営体制を整え、世界統一ブランドでの活動を開始いたします。 新たな船出となりますが、ご提供させて頂くクライアントサービスは不変です。創業以来のFor Client’s Best Interest の経営理念のもと、これからも様々な案件で皆様のお役に立つことができるよう、全力で取り組んで参ります。 (本日の日本経済新聞朝刊に全面広告を掲載しました) Houlihan Lokeyについて Houlihan Lokey(ニューヨーク証券取引所上場: HLI)は、M&A、キャピタル・マーケット及び財務リストラクチャリングに関わる業務を提供するグローバル投資銀行です。世界各地の企業、公的機関、政府等のクライアントに対し、米国、欧州、中東、アジアパシフィックにある弊社各拠点からアドバイスを提供しています。グローバルの全M&A取引におけるアドバイザリー業務で No. 1、米国の全M&A取引におけるアドバイザリー業務において過去8年連続でNo. 1、またグローバル・リストラクチャリング業務において過去7年連続でNo. 1にランクされています。また、M&Aに関わるフェアネス・オピニオン件数でも過去20年超に渡りグローバルでNo. 1にランクされています(いずれもRefinitiv社調べによる件数ベースのデータに基づく)。 フーリハン・ローキー株式会社について 会社名:フーリハン・ローキー株式会社所在地:東京都千代田区丸の内1-11-1 パシフィックセンチュリープレイス丸の内30階代表取締役:野々宮律子従業員数:230名企業HP:http://www.hl.com/jp
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- 2021.11.25
フーリハン・ローキーとの経営統合について
GCAは10月4日をもって米国フーリハン・ローキー社(以下、HL社)の連結グループ入りいたしました。 米国No.1のHL社との経営統合により、GCA/HL社は世界39拠点で1,600人のプロフェッショナルを擁する規模となり、ゴールドマン・サックス、モルガン・スタンレー、JPモルガンといったグローバル投資銀行に迫る規模になります。 今回大きなステップを踏み出したわけですが、日本の経営体制およびクライアントサービス体制は不変です。創業以来のFor Client’s Best Interest の経営理念のもと、これからも様々な案件で皆様のお役に立つことができればと思います。
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